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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1162号 判決 1969年2月20日

控訴人 小林敏郎

被控訴人 江原秀至こと 劉福得

右訴訟代理人弁護士 上坂明

同 葛城健二

同 葛井重雄

同 川浪満和

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の訴外渡辺松彦に対する大阪地方裁判所昭和四三年(ヲ)第四八七号不動産引渡命令(同年二月二一日附)に基く原判決末尾添附物件目録記載の不動産に対する強制執行は、これを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

訴外株式会社栄商会を申立人とし、同渡辺株式会社を債務者、同渡辺松彦を所有者とする大阪地方裁判所昭和三九年(ケ)第二八六号不動産競売事件につき、被控訴人が昭和四二年五月一九日競落許可決定を得、次いで昭和四三年二月二一日右渡辺松彦に対する控訴人主張の不動産引渡命令を得たことは当事者間に争がない。

ところで控訴人は、右引渡命令に表示の原判決末尾添附物件目録記載本件不動産について賃料月七千円の定で賃借権を有する旨主張し、これを理由として本訴第三者異議の訴を提起したのであるが、そもそも本件のような抵当権実行による不動産競売を準用される民事訴訟法第六八七条第三項の引渡命令は換価の目的を達成した競落後の後始末として、競落人をして簡易迅速に競落不動産の占有を得させるために、債務者(本件では所有者)等を対象として執行官に発せられる職務命令の性質を有する処分であって、不動産の引渡を命じた給付判決の執行と異るから、該命令の執行によりその権利を害せられる第三者は民事訴訟法第五四四条に基く異議又は抗告を以て不服を申立てるべきであって、同法第五四九条の第三者異議の訴を提起し得ないものと解するのが相当であるのみならず、仮に本件引渡命令に右第三者異議の訴が起し得るとしても、前記渡辺松彦を対象とした本件引渡命令に基き宛名人でない控訴人に対し執行が開始せられたことを認めるに足る証拠がない(控訴人は当審において証人渡辺松彦の尋問を申請したが、それは右賃借権の存在を立証しようとするに過ぎないことその申請理由に照し明らかである)から、控訴人としては右引渡命令に対し何等異議を述べる必要がないので、控訴人の本訴はこの点においても失当たるを免れない。

仮に右の理由が成り立たないとしても、控訴人主張の賃借権につき、本件不動産の引渡を受けたことは、これに関する≪証拠省略≫と対照してその確証とするに足らず、他に証拠がなく、反て≪証拠省略≫によれば、昭和四〇年四月一六日大阪地方裁判所執行吏は前記競売事件における同裁判所の命令により本件不動産に臨み前記渡辺松彦に出会って賃貸借の有無を取調べたところ、階下は前記訴外会社、階上は右渡辺松彦が各占有使用しているのみで、他に占有者のなかったことが認められ、これによれば控訴人は、たとえその主張のとおり賃貸借契約を締結したとしても、その引渡を受けていなかったものであるから、その賃借権を以て被控訴人に対抗することができないものである。

以上の次第であるから、控訴人の請求を棄却した原判決は結局相当でこれに対する本件控訴は理由なきに帰し、よって、民事訴訟法第三八四条第二項第九五条第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 石井末一 判事 竹内貞次 畑郁夫)

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